わかれあげまん
恋愛エレジー
* * *
「美也子。起きな。朝飯できたよ」
耳元で優しく囁かれ、美也子はむくりとベッドから起き上がった。
「ん…」
「今朝のコーヒーはとびきりうまいぞ。ホラおいで」
啓祐は笑み含みながら言い、まだ眠たげに目をこすっている美也子に、昨夜脱ぎ散らした服をかぶせてやった。
スポーツバーを営む美也子の恋人・啓祐が作るホットサンドは絶品だった。
大袈裟じゃなく、美也子はこれを食べたいがためにわざわざ泊まって帰るほど。
勿論この日も例に違わずだった。
「わあ〜!超美味しそう!ありがとう啓祐」
キッチンに出てきた美也子はテーブルの上の色鮮やかなサンドウィッチを見て踊り上がりながら言った。
「それと、昨日例のイタリアフットサルチームの選手の一人から地元のうまいコーヒー豆もらったから淹れてみたんだ」
テーブルの中ほどに置かれたアルミ製の角ばった蓋のついた特徴的なドリッパーは、啓祐自慢のエスプレッソソーサーだ。
「素敵!ローマ本場のカフェテリアみたい〜」
二人は向かい合いテーブルに着くと、頂きます、っと手を合わせ食べ始めた。
きつ目にローストされたエスプレッソは香り高く苦味も強いが、それが寝覚めの喉に心地いい。
「おいし〜!」
カップを手にうっとりと言う恋人に目を細めながら、啓祐はふと、
「あ。そういえば。」
と呟いた。