わかれあげまん
そして扉の前まで来るとおもむろに振り向き、追い打ちのように言った。
「あ!そうそうそのメモリー、俺を差し置いて教授に渡そうったって無駄だぜ。全員長期研修に出てるんだ。合評会の日まで日本には帰らないからな。お前の留年はほぼ確定ってわけだ。イヤッホウ♪」
下劣な声で囃し立てる声が背後でしているがそんなことはもうどうでもよかった。
哉汰は脇目も振らずデザイン棟をとび出して、柚の専攻する油画棟へと向かった。
さっきまでの激しい怒りが同じくらい強烈な焦燥に変わっていた。
階段を駆け上がり二回生の部屋へ。
いくつもの分室になっている油画の制作部屋を、片っ端からノックもせずに無遠慮に押し開け、柚の姿を探した。
幾度目かに扉を開けた時、哉汰はようやく、幾人かに混じりキャンバスに向かう柚の姿を見つけた。
「!?」
「あれ、…VDの、…藤宮くん?」
入り口付近に立っていた柚のルームメイトがぽかんとしてそう尋ねた。
その肩越しにこっちを見て突っ立っている柚も、同じようにほけっと口を開いていた。