わかれあげまん
* * *
冬まだ夜明けきらない早朝5時に、柚は目を覚ました。
ゆっくりと開いた瞳を配ると、目の前に哉汰の精悍な寝顔があった。
こんな風に間近から哉汰の顔を見たのは二度目だった。
柔らかな麦の穂のような前髪の奥に伏せた睫毛が生えそろっている。
すっと伸びた鼻筋と程よい厚みの唇。
改めてみるとやっぱり、キレイな顔。
あの日も同じように、穏やかな寝息を立てながらあたしに無防備な顔を見せてくれたっけ。
思いめぐらしながら、柚は彼を起こしてしまわないように小さく、クスリと笑った。
しかしやがて。
黙ってしばらく見つめていた柚の表情から笑顔が引き潮のように掻き消え。
あのね。
藤宮くん。
あの夜…
ほんとうは……
切なさにギュッと歪めた柚の顔の、その瞳から涙が零れ落ちそうになり、慌ててそっと指で拭った。
頭の中の想いを振り払うようにギュウと目を閉じ。
柚は身じろぎしながらそっと、眠っている哉汰の腕を抜け出した。