わかれあげまん
「さむっ」
身を切るような外気の冷たさに、柚はコートの中で首を竦め身震いした。
薄暗い歩道を下宿に向け、ロングブーツの足を一歩一歩踏みしめるように歩いた。
身体は凍えそうなほど寒いのに、心の中はまるで陽だまりの只中にいるように温かかった。
こんなに幸せを感じたことって、今まであったかな…
ひそやかに笑み崩れ、小さく息をもらしたら、白い湯気が立ち上った。
不思議な気持ちなの。
藤宮くんに出会うまでは。
あたしだって人並みに恋して、
人並みに幸せになりたいって考えて。
求めても、求めても、うまくいかなくて。
どうしていつも報われないんだろうって、焦って、悲観してばかりだった。
でも、違うの。
今は違うの。
報われなくってもいい。
あたしは、藤宮くんが好きなんだ。
ただその想いに気づけただけで、
本当にハッピーなんだ。