わかれあげまん
国道沿いを歩きに歩いて、やがて辿り着いた下宿のハイツ。
だいぶ空が白んできたが、それでもまだ通勤時間には程遠いほどの早朝だった。
静まり返ったロビー入口。
そこに敷いてあった靴の泥落としマットで、ブーツの底にこびりついてしまった冷たい霜の塊を落としていた柚は突然廊下向こうに感じた人の気配にハッと顔を上げた。
長身に黒いコートをまとった誰かがゆっくりこちらにやってくる。
癖のある歩き方を認め、柚の背中にぞっと悪寒が駆け上がった。
「!?」
「おっかえり~。ゆ・ず・ちゃん♪」
声を潜め言ってからクスクスと笑ったその男を見まごう筈がなかった。
「せっ……先輩!?」