わかれあげまん


「もうやめて先輩…おかしいよ。こんなことして何になるの?」


「何になるって?…そんなこと、柚が一番わかってるだろ。」


渡良瀬は鼻で笑ってから立ち上がり柚に背を向け、自分のデスクの辺りでゴソゴソと何かをやり始めた。


「それにさあ。おかしいのはそっちじゃん。あいつにちゃんとした女がいるの、知ってるくせにちょっかい出すなんて。」


違う。


あたしたちの想いは、決して間違ってなんかない。


たった今そう確かめ合ってきたんだから。


柚はそう言い返したいのを唇を噛みしめ堪えた。




渡良瀬の前で下手な発言をして、哉汰に迷惑をかけてしまっては大変だ。




ゆっくりとこちらに向き直った渡良瀬の手にあるものに、柚はぎょっとした。



「…なに、それ…」


「見てわかるだろ?…ビデオカメラだよ。」


怒りと恐怖、そして拒絶感がないまぜになって柚にこみ上げた。



さっきよりも激しく手足を動かしどうにかして拘束から逃れようとするが。



「あー無理無理、外れないよ。結束バンドで縛ってあるからね。」


のんびりと言いながらカメラを三脚に取り付け、角度を定めた渡良瀬は再び柚の枕元に戻ってきて微笑んだ。










< 342 / 383 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop