わかれあげまん
はいはい、とため息交じりに答えた渡良瀬が、ギシリとベッドを軋ませ柚の上に跨り、覆い被さった。
はだけた柚の白い胸元に顔をうずめ、ルチアに聞こえないように囁く。
「俺と柚のこんな淫らな映像、…観たらあいつ、どーなっちゃうと思う?…」
「!!」
「きっと怒り通り越して、ぶちギレるんじゃない?…俺、マジで襲われるかも。…で、あいつは一生ムショ入り。ぷははっ♪」
渡良瀬の真の狙いは柚の中でもうすっかり明らかになった。
柚はゆっくりと深呼吸し目を閉じた。
「抗っても無駄だって、もう分かったよな?」
細い鎖骨を唇で辿り、首元を強く吸われ、柚は小さく呻いて一層強く目を閉じた。
「媚薬も効いて来た頃だし。諦めてどーせなら楽しもうぜ?」
嬉しそうにまた囁いた渡良瀬の声はもう、柚の耳には届いていなかった。
心の中に耳を傾け聞いていたのは。
“別れあげまんだかなんだかしらねーけど、自分で自分を貶めて何が面白いの?”
“気づいたんだ。自分の本当の気持ち。目の前にある大切なものに。”
藤宮くん。
あたしも、気づいたよ。
こんなあたしに、何ができるのか。
…藤宮くんがあたしにくれた言葉たちが今、勇気をくれてる。
だから。
だから、あたし。───
怒りも恐怖も捨て去り、静かな決意だけが柚の心を満たし始め。
そしてそれはだれも予期しないような奇跡の扉を少しずつ、少しずつ押し開けていたのだった。