わかれあげまん
真剣な瞳で柚の行方を問う藤宮を、高戸も同じ目で見つめた。
やがて長めの重々しいため息を吐くと、高戸は言った。
「正直僕だって途方に暮れてるんだ…星崎ちゃんは有能な部下だったからね。…児童画教室の事だってそうさ。彼女にしか懐かない子だっているのに明日からどうしたらいいんだって話」
哉汰は凛とした目を向けたまま、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「信じてください所長。必ず連れ戻します。教えてください、彼女の行方を。」
「………」
「…今の彼女を守れるのは…俺だけです。」
哉汰の並みならない真剣な想いを聞き届けた高戸は、わずかに表情を緩ませた。
「その顔、信じていいみたいだな。」
高戸は座っていたデスクの引き出しを開け、小さなメモを取り出した。
それを半分に畳み指で挟んで哉汰につっと差し出すと。
「星崎ちゃんの実家そばの、お姉さんの法律事務所…彼女は今朝早くそこにもどったはずだよ。…大学で何があったのか…君と星崎ちゃんとの間に何があったのかは知らないけど…でも、僕にもわかるよ。」
高戸は口端を持ち上げ、穏やか瞳を窓の外へ向け、小さく息をついた。
「あの子の頑なな心を解いてあげられるのは、きっと君だけなんだって。」
柔らかな表情で自分を見上げた高戸から、哉汰はそれを受取り頷いた。
「ありがとうございます。…絶対、…彼女を連れて帰ります。」
くるりと踵を返した哉汰の背に高戸は、頼んだよ。と投げた。