わかれあげまん
ギュッと哉汰のシャツの胸元を掴んだまま震えて嗚咽していた柚は、ゆっくりと彼の胸を押し、上目遣いに彼を覗いた。
切なさを帯びた甘い黒曜石の瞳が、柔らかく緩む。
「なん、で…ここ…」
涙でグズグズの顔もそのままに、眉根を寄せながら柚が哉汰に尋ねた。
「所長に無理矢理聞きだした。連れ戻すから教えてくれって」
あ…
眉をもっとしかめながら柚は小さく首を振った。
「だめだよ、…藤宮くん。」
「…」
「あたし、もう大学には戻れない…」
ポロリとまたこぼれる涙をそのまま、柚は一瞬だけ下唇を強く噛んだ。
哉汰はギュッと眉を寄せ苦しげに眼を逸らした後、言った。
「渡良瀬とルゥの処分聞いてすぐ分かった。あいつらがまた何かしでかしたって…すぐに探したけどあんたはすでに退学届けを出して行方をくらましてた…ごめん。遅くなって」
柚は小刻みに頭を振り必死な瞳を哉汰へ向けると言った。
「そんなのいい。いいから、帰って。」
と告げた。
しかし哉汰は凛とした眼差しを柚に注ぎながら憮然と答えた。
「いやだ。」
「!」
「約束したんだ、所長に。…必ず連れて帰るって。」