わかれあげまん
怒涛の90分が過ぎ。
クセである跳ねッ毛を大いに乱し、げっそりとした柚がエプロンを外しながら研究所の階段を下り、スタッフルームに帰って来た。
「ただいまーです」
「おつかれさん、星崎ちゃん」
優しい声でそう言ってきたのは研究所の所長の高戸健二・34歳独身。
流行のツーブロックスタイルの茶髪の下の、何ともいえない甘いマスクは三十半ばとは思えない若々しさ。
さすがは美術研究所を背負って立つ、イケてる若獅子という感じだった。
「大丈夫?偉くやつれて。ちっちゃな怪獣になんかされた?」
「はい。今日はアキラ君に…まさかのカンチョーを……」
辟易しながらスツールにどさっと腰を下ろし、正直に答える柚に高戸は爆笑した。
「はははは〜!星崎ちゃんにカンチョーとは。やってくれるなあ、アキラ君も」
そう言ってクスクス肩を揺らす高戸に。
「笑ってないで助けてくださいよお、所長~」
と文句を垂れる柚。