わかれあげまん
「何で逃げるの。切ねえじゃん俺。」
今や男子学生たちが好奇心ギラギラの瞳で見ているにもかかわらず、渡良瀬は無遠慮に言いながら柚に歩み寄った。
「えっ…あっ…!」
激しく狼狽する柚にかまわず渡良瀬の大きな手が彼女の肩に掛かり、くるり自分の方へと向けさせると。
「話したいんだ。ちょっと顔かして?」
と、少し威圧的な顔でニッコリ笑んで、そのまま柚の左のぐるぐる包帯の腕を引っつかみ、渡良瀬はズカズカとドアへ戻って行った。
柚はまだ、ひ、とか、う、とかの苦しげな呻き声を発しつつ結局そのまま渡良瀬にどこかへ連れられてしまった。
「ちょっ…何だよ今のー!もしや俺らって修羅場の目撃者!?」
「っつか哉汰よ、お前いつの間に星崎柚と知り合ったのよ!?その袋の中身何!?」
星崎柚と渡良瀬という、渦中の二人のいきなりの登場に部屋の学生たちは興奮冷めやらない。
ただ一人哉汰を除いて。
悪乗りよろしく哉汰の手の紙袋の中身を覗き込もうとした奴の頭を、哉汰は慌てて押しのけた。
「よせよ。なんでもねえよバカ」