わかれあげまん
ゆっくりと廊下を行く渡良瀬の後姿がやがてVD4の部屋の戸を開け、中へと消えると、柚はどはっと深い溜息を落とした。
「…大丈夫?」
柚の顔はまだ青白く、下瞼にはうっすら涙すら溜まっていた。
「はい…ありがとございます。」
震える声で返した柚は、助かりました、と改めて哉汰に頭をペコリと傅いた。
「…なに言われてたの。あの人に」
声を低めて聞いてくる哉汰に、柚はびくりと身体を揺らした。
「えと…あの、…」
「…」
言いにくそうに詰まらせている柚を見ているうち哉汰は気付き始めた。
どうせしたたかなあの人のことだ。
自分の更なる立身出世のため柚を手元に置いときたいと言い寄っていたんだろう。
「もういいよ。想像はつくから。」
困り果てたように自分を見上げる柚の顔が真っ赤に染まったのを見て、哉汰は自分の想像があながち見当外れではない事を悟り、フ、と笑みを漏らした。