キミがいた夏~最後の約束~



トビーさんがいなくなって突然静まり返った店内


そして今更ながらに気づく
ここに私達の他にお客さんはおらず、二人きりだという事に


それを意識した途端、この空間がなんだ急に居心地が悪く
緊張で手に汗が滲んだ


店内に流れるのジャズだろうか?今までよりやけに音が大きく感じる


ああ、どうしようかな…沈黙が気まずい…
何か話した方がいいのかな?



でも何を?うーん…






「俺ねぇ~サーフィンは小さい頃からやってて」



そんな一人で緊張しまくっている私を余所に
唐突に先輩が話し始める




「何度も溺れたりはしてたけど、一回だけホントにヤバい時があって」




その話の流れがイマイチ分らなかったけれど
とりあえず先輩の話しに何も言わずに耳を傾けることにした




「息できなくてメチャクチャ苦しくて」



うん、私もあるからわかる



「水も飲んでさぁ~もうダメだヤバいって思ったの」



私はその時引き上げられたんだ…




「助けもこなくて、スーッと意識を失っていく時にさ


フワっと浮くような感覚っていうの?なんか苦しくなくなってんの


なんかフワフワ気持ちいいんだよ、海の中の風景がやたら綺麗で…
って今思えばもうそれはメチャメチャやばいとこまでいってたってことだけど」



今、生きてるってことは助かったんだね…
よかった…橘先輩は助かって



「まあ、病院に担ぎ込まれてなんとかこうやって生きてんだけどぉ~」



私は俯き加減で静かに橘先輩の話を聞いていた
そこまで聞いても先輩の言おうとしていることがよくわかない


ただ海の話をなんとなくしているだけなんだと思った







「だから、海で死んだら結構穏やかな気持ちで死んでいけるのかもよ?」






私はその言葉に顔を上げていた







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