ブラッディマリー
 

 もう少しドアを開けるのが早ければ、自分の顔面に当たっていたかも知れないことを想像して、背中に寒いものが走った。



「奥様、尚美様! 何をなさっておいでですか!」



 悲鳴のような金切り声は、使用人の制服を着た若い女のものだった。


 それにも驚いた和は、その女が尚美を後ろから抱きすくめている光景をようやく確かめることが出来た。咄嗟に万里亜をドアの影に隠すと、和は尚美を見る。


 吹き抜けの正面にある階段の踊り場で、尚美は前をはだけたガウンに下着だけ、というとんでもないいでたちで女に身体を押さえられていた。



「大きな顔をして、おかえりなさい、和ぼっちゃま!!」



 掠れた声がひっくり返って、もはや悲鳴とも言えないそれは、変わり果てた尚美のもの。



「……落ち着けよ。危ない真似すんな」



 すると尚美は、女の隙をついて逃げ出し、また取り押さえられないよう階段を更に駆け上がる。

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