ブラッディマリー
“黒澤敬吾様
どんなことがあっても、あなたと添い遂げようと思っていました。
泣くことがあっても、若かった私にはそれができると思っていました。
けれど、叶わなかったことを、お許しくださいませ。あなたと黒澤から逃げる私を、どうかお許しくださいませ。
あなたの妻の役目は、私につとめられるものではありませんでした。
甘く考えていた私を、どうかお許しくださいませ。
和は、間違いなくあの方の血を引く子どもです。
日ごとあの方に似てくる和を見るにつけ、私はひどく安堵し、そうして同時に後悔もするのです。あなたと二人で納得したこととはいえ、和は私自身の不貞のあかし。
母親になりきれぬ愚かな女の戯言、されど私の罪悪は誰にも止められないのです。
私はお役目を果たしました。後は無駄に老いて、朽ちてゆくだけです。
そんな女の恨み言に、あなたや和まで付き合うことはありません。
お間違いなきよう、私は私の我儘で黒澤の家から逃げるのです。あなたと和の犠牲になる為ではありません。
体裁が悪いのでしたら、どうぞ新しく奥様をお迎えになってください。
そして、くれぐれも和をよろしくお願いいたします。必ずあの子をあなたの後継者にして下さい。それが、あなたにできる唯一の贖罪でしょう。
勝手ではありますが、どんな事情のもとで生まれた子であっても、私はほんとうにあの子が可愛いのです。顔を見ることが辛くなるのは女の私、されど私も失格とはいえ母親の端くれ、優しいあの子の足枷にはなりたくありません。
矛盾をお許しください。
君子”
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