十五の詩
「──イレーネお嬢様!」
ふたりの間に初老の男性の声が飛び込んできたのは、その時だった。
イレーネとユニスは同時に声の方を見る。
「ヴェインラック」
「まだこちらにいらしたのですか。──おや…」
ヴェインラックと呼ばれた男性は、ユニスを見て恭しく一礼をした。
「ユニス・アイスラルフ様でいらっしゃいますね。スフィルウィング家の執事のヴェインラックと申します」
「初めまして」
「ふふ。ヴェインラックにユニスのことを聴いたんだ。‘天使のような人を見た’と言ったら、ヴェインラックがすぐに‘それはフェセーユの神童のことでしょう’って」
ユニスはどれくらいの人間に自分のことが知れ渡っているのだろうと恐縮した気分になったが、控えめに「ありがとうございます」と口にした。
「そうだ。ユニスって飛び級で高等科にいるって聞いたけど、十五歳って本当?」
「はい。十五です」
「そうなんだ。私は十三。ユニスよりふたつ下。最初見た時、私と同じくらいで中等科かなって思った。ごめんね」
「いえ…」
ユニスはイレーネと比べても背は小さく顔立ちも幼い。お世辞にも高等科には見えない。
思ったことを無理に隠そうとしないイレーネの真っ直ぐさはユニスには心地良かった。
「お嬢様、そろそろ…。帰りが遅くなっては家の者が心配いたします」
「うん。じゃあまたね、ユニス。ふふ、またねって今日二度めだけど」
手をふって、イレーネはヴェインラックと鍛練場を後にしていった。
ひとりになったユニスは非日常の感覚を味わっていた。イレーネという少女と話していただけなのに…。
(もっと話していたかった)
ユニスにしてはめずらしい感情だった。人に私情を持つことを心の何処かで恐れていながら、こんな気持ちにさせられてしまうことはあまりない。
(どうしたんだろう…)
感情が矛盾している。自分の感情なのに──。
*