十五の詩



「──あ」

 鍛練場を出て少し歩いたところで立ち止まるイレーネに、ヴェインラックも歩みを止める。

「どうしました?」

「本を忘れた。ちょっと待ってて。取りに行ってくる」

 イレーネは鍛練場に戻った。ユニスの姿は既になく、図書館から借りた本を見つけると、ほっとして片手に抱える。

「──?」

 キラリと鍛練場の床が光った。何だろう?

 イレーネはその小さな光に近づき屈み込んだ。拾い上げてみる。

(指輪だ…)

 イレーネはその指輪を拾い、ヴェインラックのもとへ戻った。

 帰りの車の中、イレーネがいつになく静かで、ヴェインラックは運転をしながら声をかける。

「どうなさいました、お嬢様」

「うん…」

 手のひらの中の指輪。おそらくユニスのものでは、という予感があった。

 寮まで行かなかったのは、それがユニスのものであるという確信を持てなかったからだ。

「男性が女性の指輪を持っているって、どういう時?」

 イレーネは指輪を見つめながら聞いた。

「指輪、ですか?それはまた…」

 ヴェインラックは予測もしていなかった問いに、答えを途切れさせる。

「好きな女性にあげたい時では」

「そうなのかな…。他には?」

「他には…普通はそれしか考えられませんが…。いずれにしてもその指輪の女性が大切であることに変わりはないでしょうね」

「そう」

「指輪がどうか?急にどうされました?」

「ううん。…何でもない」

 イレーネは指輪を大事にしまいこんだ。たぶんこの指輪の落とし主は、指輪のことをあまり人に話されたくないだろうという気がしたので。



     *



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