十五の詩
別の理由で努力をしていたはずなのに、そこにいつのまにか他者の思いの混ざった神童という呼び名までがあるようになっていて、それを課せられた重荷のように感じているのだ──。
まるで神童であることが当たり前であるかのように。
努力している理由は──守れるような人間になりたいからだ。
(父上や母上、レミニア先生のできなかったことを)
ユニスはしばらく考えて言葉にした。
「立場、だと思います。努力しているのは。私には守らなければならないものがあるので。そのために。──ただ、自分が努力していただけのことが、いつのまにか周りの期待までも負ってしまったように感じて、それが重荷になっているのかもしれません」
イレーネはその答えに何か思うところあったのだろうか。憂いを帯びた表情になった。
「立場か…。立場があると、つらいね」
そういえば彼女はスフィルウィング家のご令嬢なのだ──。
ユニスは気遣うように問う。
「──あなたも?」
「そうだね。守らなければならないもの…。そういうものは私にもある」
イレーネは先刻ユニスに治してもらった手を見ながら、言った。
「生き急いでいる、と言われた。師匠に。それで時々怪我をする。頭ではわかってはいても難しい」
「──」
「あなたが‘無理をしていない傷ではないです’と私に言ったのは、あなたも無理をしているから?」
その類いの無理をしたことがなければ言える言葉ではない、とイレーネは思っていた。
イレーネの言葉はユニスの心にストレートにふれてきた。それほど会話を重ねなくても、芯を引き出してくれるような相手だ。
「そうかもしれません」
「じゃあユニスも無理しないで。‘立場’はあなたのせいじゃない」
抱えていた思い出や気負っていた気持ちが拭われる気がした。
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