十五の詩



「ただいま」

「ああ、おかえり」

 部屋を出る時沈んだ表情だったユニスが、何か別のものを得てきたような表情をしている。ヴィンセントはその変化が気になった。

「どうした?」

「スフィルウィング家のご令嬢に会いました」

「え?」

「鍛練場まで足を運んでみたら、背後から襲われました」

 まだ心はその時から戻ってきていないようなユニスの口ぶりに、ヴィンセントはしばしその文脈を吟味し、大丈夫か?と笑う。

「おいおい、その言い方は何か誤解を招くぞ」

「あ…ええと…」

 指摘されて、ユニスは頬を赤くした。

「私が剣を持って鍛練場に入って行くところをご令嬢が見たようなんです。それで私を試してみたくなったと」

「ああ、そういうことか。彼女も好奇心が強いな」

 ヴィンセントの口調に、サロンでイレーネの話をしていた時のような堅さがなくなっている。ユニスは小首を傾げた。

「ヴィンセントはご令嬢とは何か関わりが?」

「許婚者だ」

 穏やかな表情でヴィンセントが告白した。

 ユニスは時が止まったようにヴィンセントの顔を見つめる。ヴィンセントは苦笑した。

「レナートにはまだ言っていない。他の寮生にも」

「で、でも…。私には、なぜ?」

「お前はそういうことで騒ぎ立てたりする性格ではないだろう」

「……」

 ユニスはまだそういう話に慣れていないのか、口をつぐんでしまう。

「おい、こういう話でそんなに緊張することないだろう」

「だ、だって…急にそんな話をされても…」

 そういう人がいるとは思っていなかったんです、とユニスは正直な心情を口にした。

「そういう人か…」

 眼鏡の奥の緑の瞳が憂いを帯びた。

「少し俺は気後れしてる」



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