十五の詩
「気後れ?」
「本当に誰にも渡したくないと思うくらい想っている人だったら、誰にも気後れなんかしない。好きだった女を諦めさせられて親が選んできた相手は、俺にはこれ以上は望めないというくらいのご令嬢だった。この国では国王のフィノ・エルティエーブの次にランクの高い女性と言われているくらいだからな。だから俺にはその話を拒否することは許されなかった。俺の方から断ればイレーネ嬢を侮辱するも同然の行為だからな。でも俺の他にもイレーネ嬢には許婚者候補は何名かいた。俺は選ばれないことを願った。でも──イレーネ嬢が選んだのは何故か俺だった」
「──」
「俺は、何故俺を選んだ?とイレーネに聞いた。すると、イレーネはあっさりこう答えた。‘あなたは興味本位にイレーネ・スフィルウィングに関心がある人の顔をしていない。誠実そうな人だと思ったから’と。俺は、その場でイレーネにすぐ謝った。俺には好きな女がいると」
「ご令嬢は何と?」
「‘それなら良かった’と。イレーネも家同士が決めた許婚者のことには乗り気ではないようだった。ただ、許婚者がいつまでも決まらないと次から次へとそういう話が後を絶たないだろうから、表向きは許婚者であることを許してはもらえないだろうかと。俺は了解した。でも──その時には好きな女には男が出来ていた」
ヴィンセントはそこまで一息に語り、皮肉な話だなと呟いた。
「イレーネは魅力的な令嬢だ。それで落ち込んでいた俺の話を聞いてくれたし、励ましてくれた。俺もイレーネ嬢のことがだんだん好きになった。でもレナートのようにそこまでイレーネのことを想えるかといったらそうではないから──俺がイレーネの許婚者でレナートがそうではないのは何かが間違っているような気がする」
ユニスはしばし無言でいたが、ヴィンセント、とやや強めの声音になった。