十五の詩
「レナートはレナートです。ヴィンセントは好きな女性にきちんと気持ちを伝えたんですか?」
「ユニス?」
「私なら伝えます。後悔のないように。好きな女性に好きな人がいてもいなくても、私がその人を好きだから」
先刻までのひどく感傷的な少年の表情とはまるで違う、ひたむきな眼差しがヴィンセントを貫いていた。
「ヴィンセントがご令嬢をそこまで想えないと自覚しているのは、好きな人のことがまだ好きだからでしょう?」
うっすらと心の何処かでわかってはいたのに、認めたくなかった答えを差し出されて、ヴィンセントは‘参ったな’と声にした。
「その通りだ。俺はまだその女が好きだ」
「──」
「お前は強いな、ユニス。俺は好きな女に好きな男がいるというだけで、もう許せない。好きな女に好きな人がいてもいなくてもなんて、そんな言葉は言えない」
「──違います」
「え?」
「人は明日、自分が生きているのかなんて誰にもわかりません。自分の好きな人も明日生きているのかなんて誰にもわからないんです」
(──ああ、そうか)
ヴィンセントの胸の奥に、水滴が落ちるように声の波紋が広がった。
ユニスはきっとそれを見てきたのだ。──好きな人が明日生きているのかはわからないということを。
ヴィンセントの心に昔抱いていた純粋に好きだった時の気持ちが呼び起こされていた。
「お前はまだ愛せるんだな…。ユニス」
「──え?」
「心が折れてもそういうことが言えるのは、本当に愛していて、折れた時の感情一色には染まっていないからだ。雑多にある人の感情の渦の中にさらされていると、普通はすれそうなものだが──」
「幼いですか?」
「いや、お前を見ていると幼いというのとは少し違う気がするが…」