十五の詩
ひどく傷ついているようにも、怒りを持っているようにも、けれどもその中に何処か無限に広がる静穏な柔らかさをユニスの眼差しに見て、ヴィンセントは浄化されるような思いになった。
「お前が神童だと言われているのはお前だからなんだろうな…。お前を見ているとたぶん普通の奴は色々な感情に波風を立てられたり、自分まで露わにされるようで、黙っていられなくなるんだよ。その純粋さに目を奪われたり浄化されたりする反面、こんな綺麗な人間がいるわけないとか、同じところに叩き落としてやりたいとか、人間はもっとこういうものだとか──嫉妬というのかそういうものをぶつけてやりたくなる」
ぶつけてやりたいというヴィンセントの言葉には、言葉ほどにどろどろしたものは読み取れなかった。
おそらくヴィンセントの自分に対する感情が、ぶつけてやりたい以外のものも大きかったからだろう。
ユニスは麻痺してしまった痛みの感覚を反芻するように静かに言った。
「私が神童でなければならないのは、そういうことなんですね」
「──お前には何か人にぶつけてやりたい感情はないのか?」
「私を傷つけたらヴィンセントは得られるものはありますか?」
ユニスは真っ直ぐにヴィンセントを見つめた。
(ユニスを傷つけたら──?)
──どうなるのか。
どう考えても傷つけて後に得られるようなものはない気がした。
ヴィンセントは自分よりも年若い、線の細いユニスの優美な身体つきを見下ろして、年上である自分がひどくくだらないことを考える人間であるような気がして、惨めな気分になった。
ヴィンセントの手のひらがユニスにふれた。
何だろうとユニスがヴィンセントの表情を窺おうとする。
だが窺う間も与えられないままに、次の瞬間にはユニスはヴィンセントに抱きしめられていた。