十五の詩
寮を出て、木々の立ち並ぶ校内をぐるりとめぐり、行き着いたところは鍛練場だった。
人の気配がない。練習用の剣を手に取ると、ユニスはがらんとした鍛練場の中に入っていった。
──と、背後で鋭いものが空を斬った。
ガッ──!!
剣でそれを受け、ユニスは不意を襲ってきた相手を睨みつける。相手はその感度の良さに嬉しそうに笑った。
「失礼。すごいな。剣術も得意なの?」
「え?」
ユニスは相手の顔を見て驚いた。イレーネだったのである。
「す、すみません。ご令嬢を相手に」
「謝らなくていいよ。失礼な真似をしたのは私の方なんだし。ふふ、剣を持って入って行くのが見えたから、試してみたくなった」
ごめん、とイレーネは明るく笑った。見ている方もつられて顔がほころんでしまう。
「ユニス、今から練習でもするの?私はさっきまで練習していたんだけど。私でいいなら相手になるよ」
イレーネは軽く息があがっている状態で気分がハイになっているようだ。
白いブラウスのタイを引き抜くと、第1ボタンを外した。耳にかかる銀髪がはらりと揺れる。
イレーネは意識していないようだが、そこはかとなく漂うものは明らかに男にはない雰囲気だ。
普段ヴィンセントたちを相手にしているユニスには、イレーネは十分たおやかで可憐に見えた。
剣を交えること自体がとんでもないという気分になってしまう。
「──ええと…」
「私では不足?」
微笑みを浮かべたまま小首を傾げ、顔をのぞきこんでくる。ユニスは困って俯いてしまった。
「女性が相手だと緊張します」
「ふうん。そっか」
残念そうにイレーネは剣をしまいこんだ。何気なく目にした彼女の手に血が滲んでいるのを見て、ユニスは言葉を発してしまう。
「手が」
「え?ああ、これ?大丈夫。練習中に少し切った。あなたのせいじゃないよ」
ユニスはイレーネの手を掴んで見る。
「無理をしていない傷ではないです」
「……」
「そうですよね?」
「うん。少し無理をした。捻った」
声は明るいが傷は痛々しい。ユニスは傷に手をかざす。その手のひらがふわりと柔らかい光を帯びた。