十五の詩
「あ…」
治癒魔法だ。
見る間に傷が治ってゆくのを目の当たりにして、イレーネはどう言えばいいのか判らない表情になった。
「ありがとう。──こういう傷は魔導の力に頼って治すなって師匠は怒るんだけど。自分の身体に刻んでおけって」
「師匠?厳しいですね」
「アーネスト先生。知らない?」
「ああ…」
ユニスは苦い表情になった。
「手加減しませんよね。私も相当しぼられてます」
「え?何て?」
「外に出たら剣を携えて来る者が道理をわきまえている者とは限らない、体格の差や年齢の差に甘えるなと」
「ああ…。言いそう…」
そこで目が合って、イレーネとユニスは笑い合ってしまった。
楽譜を届けてくれた天使をあらためてよく見て、イレーネは初めて会った時の印象をそのまま話した。
「あんまり綺麗だったから天使に見えた。あなたのこと」
「え…」
「本当だよ」
誰の目から見ても疑いようもなく美少年であるはずなのだが、意外にこういう言葉は言われないのだろうか?
シャイなのかユニスは戸惑った様子を見せた。
その表情が何となく‘彼らしいな’とイレーネは思う。
「それで気になって、あなたのこと少しだけ人に聴いた。‘フェセーユの神童’ってあなたのことなんだね」
容姿も容姿である上、飛び級で学んでいるほど優秀ともなれば、そのような呼び名がつくのは不思議なことではないだろう。
ユニスは人となりの物静かさとは裏腹に、目立つ存在だった。
「……。神童ですか」
ユニスは複雑そうな表情を浮かべた。
「努力をしていても、していないような振る舞いを求められ続けていると、一体自分が何なのかがわからなくなります」
イレーネはユニスの言葉に引っ掛かりを感じた。
「努力をしているの?何故?」
「え…?」
「神童でありたいから?」
そうではない、と思った。神童だと思われたいための努力ではない。
呼び名は他者の目にはそう見えるというところから派生したもので、自分が神童になりたかったわけではない。