大海の一滴
瞬間、気持ちが抑えられなくなっていた。
「タツユキ君、好き」
れいこは、タツユキ君を強く、強く抱きしめた。
小さく雨の音が聞こえていた。
開けっ放しの引き戸の外、タツユキ君の背中越しにさちちゃんが立っているのが見えた。
雨に濡れたせいなのか、コバルトブルーのワンピースが喪服のような黒ずんだ色に見える。
小さな悪魔が生まれたのは、その時だった。
れいこは、固まったままのタツユキ君に、生まれて初めてのキスをした。
ぎゅっと目をつぶる。
目を開いた時、さちちゃんはいなくなっていた。
胸に、チクリとまた痛みが走る。
(これでいいんだ。だって、運命だもん)
れいこは、自分に言い聞かせた。