大海の一滴

「う~ん、気持ちは嬉しいけど、それって一時的なもんだと思うよ」

 タツユキ君は、優しくれいこを引き剥がした。


 頭を撫でられる。まるで、小さな子供をあやすように。


「オレさ、小学生の時サッカー部入ってて、こう見えて結構モテたんだよね。んで、彼女とかオレのファンもそれなりにいてさ。それが中学入った途端、み~んな女子は大人になっちゃって、オレなんか眼中ない感じ? 焦ったな。んで、なんかしなきゃってことで自転車旅行を画策して、結局このザマなんだけど」

 いつもの爽やかな笑顔でタツユキ君はカラカラと笑った。

「それにさ、オレ、明日の早朝ここを発つつもりなんだ。足も治ったしそろそろ学校にも戻んないと。だから、ごめんな」







 とても惨めな気分だった。





 れいこは、一人歩いていた。

 いつの間にか雨は止み、澄んだ空気の中で満月が煌々とれいこを照らしている。

 その中を一人黙々と歩き続けた。

 肌寒い潮風が容赦なく全身を突き刺して行く。
気が付けば、もう秋も深まっていた。




 胸がチクチク痛んだ。でも、涙は出なかった。


 耳の奥がキンキンと鳴り、重油のように重たい液体が頭の中に溜まって行く気がした。







「おやおや、こんなに身体を冷やして」
 おばあちゃん。

「とにかく、お風呂に入りなさい。風邪をひいてしまう」
 うん。

「温まったかい? おやつがあるんだよ。曽根さんのとこでおはぎを買ってきたんだよ」
 そんなのいらない。

「そうかい。最近、和菓子を食べなくなったね。それじゃあ、ちょっと早いけどご飯にするかい? 今日は金目鯛の煮つけだよ」
 いらない。

「具合でも悪いのかい?」
 もう、寝るね。

「そうかい、おやすみ」
 おやすみなさい。





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