大海の一滴
目覚まし時計を見ると、午前四時四十四分だった。
縁起が悪いぞろ目。
昨日早く寝た分、すっかり目が覚めてしまった。
ぐ~~~。
お腹が空いて、もう眠れない。れいこは忍び足で階段を下りた。
ジーっと、寒い部屋の中を冷蔵庫の音だけが低く響いている。まだ真っ暗。
と言うことは、おばあちゃんはまだ眠っているのだ。
れいこは緑色の冷蔵庫をそっと開いて、深皿に入った金目鯛の煮つけを取り出した。
昨日から煮立っている電気ポットのお湯をマグカップに注ぎ、ティーパックを浮かべる。
寒い。
テーブルの椅子に掛けてある、綿入りのたんぜんを羽織り、絨毯の端で山積みになっている洗濯物の中から靴下を引っ張り出す。
音が出ないように慎重に椅子を引いて、れいこはテーブルに座った。
金目鯛は驚くほど冷たく、食べる度に鳥肌がプツプツと立ってくる。
れいこは金目鯛と紅茶を交互に口に入れ体温を調節した。
お腹にある程度物が溜まると、だんだん昨日のことが蘇って来て耳たぶの辺りが熱くなった。
タツユキ君。
振られたショックよりも後悔の方が大きい。
昨日の自分の行動が物凄く恥ずかしかったし、抱きついてキスまでして、あっさり振られた事実が嫌だった。
でも、それだけだった。
タツユキ君の爽やかな笑顔や、頭を撫でてくれる温もった手を思い返しても、湧き上がるような、くすぐったいような、思わずジャンプしたくなるようなあの感覚は、もう訪れなかった。
あんなに好きだったはずなのに。初恋なんてこんなものなのだろうか。
タツユキ君の爽やかな笑顔が、さちちゃんになる。
ズキ。
(違う)
違う。
(あんなこと、するつもりじゃなかった)
さちちゃんの虚ろな目。
(私はただ)
ただ?
分からない。