恋の魔法と甘い罠
「――和泉さんと、このバーで会った日……あたしの部屋に忘れていった腕時計を返しに、慎也さんの家を訪ねていったんです」



実際は、訪ねる前に引き返してきたんだけれど。



「あたし……慎也さんが結婚していたことも、奥さんが妊娠していることも、全然知らなくて……」



それだけ言うと、あのときの場面が脳裏に浮かんできて、胸の奥がずきずきと痛み、それと同時に熱くなった瞳から、涙がぶわぁーっと一気に溢れ出してきた。



「いつも『好きだよ』って……『愛してるよ』って……言ってくれていたのに……愛されてるって、思って、いたのに……っ」



話し始めてしまうと、今ここで言わなくてもいい言葉まで飛び出してきて。


いつの間にか、 誰にも……慎也さんにすら吐き出したことのなかった本音を口に出していた。


いくら『すべて流した方がすっきりすると思う』と言ってくれていたとしても、こんなことを言われて和泉さんだって困るはず。


だけど、言ってしまったことは取り消せるわけもなくて。


その上、このぐちゃぐちゃな顔を見せる勇気もないから、顔を伏せたままただ涙を流し続けるしかなかった。
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