ヘタレな彼氏と強気な彼女
「俺は惚れ直したけど――? 今日の千歳、すっげーセクシーだよ。誰にも見せたくないくらい」

 クローゼットから引っ張りだした、昔誰かの結婚式に着るのに買った黒のワンピース。

 背中の開いたデザインが恥ずかしくて結局着なかったっていうのに、さっき一輝に急かされて半ば強引に着てきた、初めての女らしい服。

 一輝だったら真っ赤になって、絶対止めるだろうっていうくらい、胸元も強調されたデザインのそれを、今の『一輝』は気に入ったようだった。

 リクエスト、というかほとんど命令に近かった言葉に従わざるを得なくて、髪の毛もおろしたまま。

 いつもは絶対後ろで結んでいるから、風に流れたりして、落ち着かない。

 映画館でもみんなに見られている気がして、ストーリーなんて頭に入らなかった。

 しかも、いつもの一輝なら絶対選ばないような大人の恋愛ものだったから――。

 横顔は確かに一輝なのに、つないだ手のぬくもりも一輝でしかないはずなのに、本当に性格が変わったんだろうか。

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