ヘタレな彼氏と強気な彼女
 悶々としている私の横で、一輝は明るい顔で色々な話をする。

 さっき見た映画のこと、気になったニュースのこと、それに職場での面白かった話。

 いつもイライラさせられていた愚痴めいた言葉は、一切出てこなかった。

 代わりに見えるのは、自信に満ちたきらきらした瞳。

 ぴんと張られた背中。男らしい態度の数々。

「お、これなんかどう? 千歳に似合うよ」

 通りがかった店のマネキンが着ていた女の子らしいワンピースなんかも薦められちゃったりして。

 私もいつもの調子が出ない。男らしいとかは散々言われたけど、きちんと女の子扱いしてもらったことなんてないから。

「こ、こんなの似合わないよ……だって私こんなにスタイルよくないし。それに――」

 女の子らしくないから、そう続けようとした私の言葉をさえぎって、一輝が微笑む。

「俺が似合うって言ったら似合うんだよ。千歳のことは、他の誰より俺が一番知ってる」

 余裕たっぷりにウインクされて、どうしたらいいかわからなくなる。

 一輝がこんなこと言うはずないのに――そう思いながらも、心の片隅で喜んでる自分がいた。

 こんな一輝なら、私も『女の子』になれるのかも――。

 ついそんなことを思った頃には夕暮れが近づいていた。

 熱かった日差しが和らいで、段々街灯が明るく見え始めた時、一輝が突然私の手を引いて、早足で歩き始めた。

「ちょっ、ちょっとどこ行くの? 急に――」

「いいからいいから。黙って俺に付いてきなって!」

 自信と余裕に引っ張られ、私はそのまま一輝にリードされていった。

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