ヘタレな彼氏と強気な彼女
「どうかしたか? 千歳」

 訊ねられて初めて、自分が俯いていることに気づいた。

「ご、ごめんなさい。ちょっとお手洗い――」

 言うなり席を立って、逃げるように駆け込んだトイレで、私がカバンの中で探した物、それは――。

「説明書き、説明書き……あった!」

 家を出る前にひっつかんで、ぐしゃぐしゃでカバンに入れた紙を広げる。

 先ほど読んだ簡潔な文章以外に、何か元に戻れる方法が書かれていないかを必死で探す。

 けれど、裏を見ても、電気に透かしてみても何も見えなかった。

「どうして……どうしよう」

 このまま、ずっと元に戻らなかったら――私はどうすればいいんだろう。

 ぎゅっと目を閉じれば、浮かんでくるのはいつもの一輝。

 虫を見ては悲鳴をあげて、口を開けば情けない愚痴三昧の――けれど、いつも笑っている、優しい一輝。

 私の好きなおかずを作って、帰りを待っていてくれる一輝。

 鼻歌を歌いながら、掃除をしてくれている一輝。

 そんな姿が、私は……。

 なのに私、取り返しのつかないことをしてしまったんだ。
< 14 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop