ヘタレな彼氏と強気な彼女
『せめて髪ぐらい伸ばしとかないとさ、本当に男に間違われちゃうから』

 そう言って頭を掻いた私に、笑わなかったのは一輝一人だった。

 短大卒業記念だとかなんとか言って、連れ出された大学部との合コン。

 人数合わせで無理やり参加した私の隣に座ったのが一輝で、その頃はソフトのサークルに入ってたから日にも焼けてて。

 他の可愛らしい女の子たちに混ざって恥ずかしくなった私の言い訳――わざと明るく言った言葉を一輝が真顔で否定したんだ。

『何言ってんの、男になんて見えないよ』

 そう、一輝は私を最初から女の子として見てくれてたのに――。

 どうして忘れていたんだろう。

 帰る方向が同じで、どちらかといえばふらついていたのは一輝だったけど、それでも『送る』と言ってくれて。

 なんとなく次の約束を交わして、また次、そのまた次も――そうやって、気づけばずっと一緒にいて。

 私のほうが忘れていたのかもしれない。

 一輝がちゃんと、男の人だってこと。
 
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