ヘタレな彼氏と強気な彼女
 ぐわん、ぐわんと洗濯機が回っている。

 その隣で一輝が楽しそうに拭き掃除をしている。

 いつもの週末、いつもの光景。

 ただ少し違うのは、私も一輝の横で雑巾片手に窓を拭いていることだ。

「別にいいのに、千歳は休んでても。僕、好きでやってるんだから」

 そう優しく言ってくれる一輝を見上げて、私は笑う。

「だって、やっぱり私も女だし――少しぐらいはって思ってさ」

 あいかわらず手早い一輝の手つきに比べたら全然負けてるけど、それでもなせばなる。

「ちょっとぐらい修行しとかないと、将来のためにもね」

 なんて言ってしまってから、赤くなる私。つられたように染まる一輝の頬は、もっと赤いけれど。

「千歳……」

 目が合って、思わず笑いあってしまってから、静かに唇を合わせる。

 触れるだけの、優しいフレンチキスは――私と一輝の確認なんだ。

 言葉にしなくても、お互いを想いあってることの素晴らしさ。

 静かだけど、確かなもの。

 何よりも、こうして一輝と一緒にいるだけで楽しい。

 そんな簡単なことを思い出させてくれただけでも、あの『薬』は結果的に役に立ったのかも、なんて思えるようになったのは最近のことだけど。

 あの後、一輝は自分がやったことを夢だとしか思えなかったみたいで、私も曖昧にごまかした。

 カードの支払いに翌月一輝が泣いてたことも、私が酔っ払って使わせたことにして納得してもらって。

 あの薬と、あの日の一輝は、私の胸だけに閉まった秘密だ。

 謎だったのは、なぜかどう探してもあの薬のホームページも、カードの支払い記録も見つけられなかったこと。

 結局、あれは一体何だったんだろう――。

 もしかしたら、大切なことを忘れていた私への、神様からのプレゼントだったのかも。
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