恋をした悪魔
その夜、リリスは家を抜け出しました。
魔王から授かったナイフを取り戻すためです。
しかし、ナイフはやはり清浄な湖の底に沈んでいました。
水面に触れるだけで、手はただれてしまうでしょう。
悩んだ末、リリスは苦渋の思いで語りかけました。
「お願い、ナイフを返して」
すると、水の妖精がどこからともなくふわりと姿を現しました。
「あら。誰かと思えば、いつかの悪魔のたまご。
ちっとも気がつかなかった」
「お願い。あの底に沈んでいるナイフを返してほしいの」
言い募るリリスに、水の妖精は怒ることなく穏やかに言いました。
「返してもいいけれど、それは意味のないこと。
どうしてもと言うなら、自分で持っていくといい」
そして戯れのように水面を駆け始めました。
その拍子に弾けた水滴が、水際にいたリリスの腕にかかりました。
身構えたリリスでしたが、いつまで経っても痛みは訪れません。
見ると、清浄な水で濡れた腕は、それでも綺麗なままです。
水の妖精は悪戯な笑みを浮かべ、リリスの傍を舞いました。