恋をした悪魔
「時は過ぎた。愚か者よ」
突然、まがまがしい声が響き渡ると、空に真っ黒な大渦が現れ、
穏やかだった森がごうごうと鳴き出しました。
そして闇をまとった突風が窓を割って入りこんできました。
「人間にほだされ、命令に背くとは。所詮出来そこないだったか」
それは、大きな影に姿を借りた魔王でした。
「愚か者は無に帰せ。そして、わずらわしい人間には罰を」
許しを乞う暇もありませんでした。
リリスは闇色のナイフで胸を貫かれ、青年は瞳を潰されました。
魔王は瞬く間に姿を消し、森に静けさが戻りました。
血の涙を流しながら、青年は消えゆく光の先にリリスを探しました。
リリスは砂のように脆くこぼれていく腕を、青年へ伸ばしました。
青年は、リリスの体をそっと抱き寄せました。
「ごめんなさい」
リリスの口が、そう動きました。
「頼むから、消えないでくれ」
震える声で、青年が言いました。
「君のことを、愛しているんだ」