恋をした悪魔

「時は過ぎた。愚か者よ」

突然、まがまがしい声が響き渡ると、空に真っ黒な大渦が現れ、

穏やかだった森がごうごうと鳴き出しました。

そして闇をまとった突風が窓を割って入りこんできました。

「人間にほだされ、命令に背くとは。所詮出来そこないだったか」

それは、大きな影に姿を借りた魔王でした。

「愚か者は無に帰せ。そして、わずらわしい人間には罰を」

許しを乞う暇もありませんでした。

リリスは闇色のナイフで胸を貫かれ、青年は瞳を潰されました。


魔王は瞬く間に姿を消し、森に静けさが戻りました。

血の涙を流しながら、青年は消えゆく光の先にリリスを探しました。

リリスは砂のように脆くこぼれていく腕を、青年へ伸ばしました。

青年は、リリスの体をそっと抱き寄せました。

「ごめんなさい」

リリスの口が、そう動きました。

「頼むから、消えないでくれ」

震える声で、青年が言いました。

「君のことを、愛しているんだ」

< 29 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop