恋をした悪魔
愛というものが何か、リリスは分かりませんでした。
そして今、胸を締めつけるこの感情の名前も知りません。
ただ、もう消えてしまう自分が、最期に青年に伝えたいこと。
あたたかい腕、一緒に飲んだミルク、初めてくれた小さな絵……
いろんな思い出が駆け巡りました。そして。
――悪魔には、なれなかったけれど
――笑顔が似合う、絵を描くのが大好きな青年に出会えて、よかった。
たったひとつ、この想いだけが宝石のように残りました。
「あなたは、絵を描き続けて。ずっと、ずっと……」
その声を聞いて、青年の視界は闇に閉ざされました。
ひんやりとした愛しい肌は、彼の手の上をさらさらとすべり、
夢のように消えてしまいました。
そして最後に、丸くて、なめらかで、冷たい、
リリスの温度をした小さな石だけが残りました。
青年は、その石を胸に抱いて、泣きました。
リリスを呼ぶ悲しい声に、まるで呼応するように
森にさめざめとした雨が降ってきました。
雨は、止むことを忘れたかのように、ずっと降り続きました。