抹茶な風に誘われて。
「おっはよー、かをるちゃん!」

 教室に入ったら、昨日とは打って変わった明るい声で優月ちゃんが言った。

 一瞬思い出してしまったあの派手なメイクや髪型が重なったけど、今日の優月ちゃんはいつも通りのナチュラルメイクで、満面の笑みを浮かべている。

「お、おはよう、優月ちゃん。あの……も、もう大丈夫なの?」

 訊ねてから、しまった、と思ったけれど、あの騒動を私が見ていたことなんて知るわけもない優月ちゃんは、その意味を普通に捉えたらしく、ピースサインをしてみせた。

「うん、もう完全復活! ごめんねっ、心配かけて。もうあんな男こっちから願い下げってことでさ、相手の女に譲ってやることにしたんだー」

「そ、そうなんだ……でもよかった、優月ちゃんが元気になってくれて」

「ほんとだよー、元気のない優月なんて見たくないよ」

 同意した咲ちゃんと私、そして昨日心配していた他の子たちの全員を教室の隅に呼んで、優月ちゃんはにいっと笑う。

「それでね、同時に報告なんだけど、あたし新しい恋見つけちゃいましたーっ!」

「ええーっ、もう?」「すんげー早すぎ」「でもいいじゃん、優月らしくて」などなど、みんながそれぞれ言い合う中、私は一人、黙っていた。

 自分の嫌な予感を、まさかと打ち消して、優月ちゃんの言葉を待つ。

 ピンクの口紅を綺麗に塗った唇が、嬉しそうな笑みを形作った。

「それがさ、さ・い・か・い、しちゃったんだ。あの河原で会ったハーフ美形のお兄さんと!」

 かしゃーん、と音が鳴って初めて、私は自分が持っていたペンケースを落としてしまったことに気づく。

「あ、ご、ごめ……」

 謝る私の声なんて誰も聞いてなくて、みんなは興味津々で優月ちゃんの次の言葉に耳を澄ませていた。
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