抹茶な風に誘われて。
「昨日ね、裏通りで偶然会っちゃったんだ、タカシの二股相手に。タカシと別れろって詰め寄られて髪引っ張られて騒がれて、そりゃもう大変でさ」

「マジい!?」

「サイアクじゃん」

「で、どうしたの?」

 みんなの問いかけは期待通りだったのか、優月ちゃんは嬉しそうにうんうんと頷いてから、人差し指を立てた。

「そこを助けてくれたのが例の彼よ! さりげなく間に入って相手の女もなだめてくれてさ、そのお手並みの見事だったこと! もう素敵すぎて一気に恋しちゃったあ!」

 微妙に真実とは違っているものの、そんなことを知ってる子なんて誰もいないから、みんなが一心に聞き入って興奮状態できゃあきゃあ騒ぎ始めた。

「やだあ、うらやましい! で、で? あの人どこのどんな人なの? 名前は? 年は?」

 散らばったシャーペンやボールペンを拾う手が震えている。

 けど今は、咲ちゃんさえもそんな私の反応には気づかなくて、優月ちゃんに「教えて教えて~」と迫っている。

「名前は一条静、年は三十。昔ナンバーワンホストだったらしいんだけど、今はやめて、茶道教えたりとかしてるんだって!」

 ――どうして、優月ちゃんがそこまで知っているの?

 もう一人の私が頭の中で問いかける。

 自分が真っ青な顔色をしているんじゃないかと思ったけれど、窓ガラスに映る影はそこまで教えてはくれなかった。

「ホストお? で、今茶道って! すごい差じゃない? それで着物着てたんだあ」

「三十って結構年行ってない? 大人の男、行っちゃうわけー?」

 茶化すみんなの言葉も気にしないのか、優月ちゃんはすっかり夢見る乙女のような仕草で両手を組んで言った。
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