抹茶な風に誘われて。
 ――言わなきゃ。

 そう思うのに、嬉しそうにはしゃぐ優月ちゃんを見ていたら何も言えなくて。

 気にしてくれる咲ちゃんにも相談できないまま、結局私は学校を出てしまった。

 一度失ったタイミングはもう取り戻せないのだろうか。

 なぜかこういう時に限ってバイトも忙しくて、静さんの家に行く暇もないまま二日が過ぎた。

 もう、優月ちゃんは静さんと会ったのかな? 静さんは、何て言ったんだろう。

 電話、してみようか――仕事の合間にエプロンから取り出して携帯を眺めるけど、静さんも忙しいのかメールも着信もなかった。

「うーっす! かをるちゃん、いるー?」

 元気な声で亀元さんがお店に入ってきたのは、弊店間際の八時だった。

 独特のスーツと髪型で、すぐにお仕事の日だってことがわかる。

「どうしたんですか? こんな時間に……」

 葉子さんも商店街の会合で呼ばれていたから、お店には私一人で、ちょうどお客さんを送り出して一息ついたところだった。

「いやあ、実は先輩ホストに花束買ってこいって頼まれちゃってさー。それがナンバーツーなんだけど、もうやなヤツで、客の誕生日忘れてたの自分のくせに、俺に頼んどいただろとか言いがかりつけるわけよ。むかつくから店の近くじゃなくって、ここまで来ちゃった。かをるちゃんの顔も見れるし」

 へへ、と舌を出す亀元さんが、カウンターの横に置いてあるパイプ椅子にどかりと腰を下ろす。

 歩いてきたなら暑いだろうと思って冷たい麦茶を出してあげたら、すごく嬉しそうな顔で笑ってくれた。
< 124 / 360 >

この作品をシェア

pagetop