太陽と雪
「あら?
早かったのね、彩」
私に声を掛けてきたのは、ママだった。
「ママ……」
今帰ったらしく、チェックブラウスにネイビーのカーディガン、ベージュのチノショーパンを着ている。
寒色系の色の服がよく似合うママ。
いつもの黒いジャンスカワンピじゃないってことは……今日は法廷に立ってないのか。
法廷に立つ日は、黒いジャンパースカートを着ているのが常だ。
「彩。
貴女……顔色悪いけど……大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。
ところで…ママはどこに行ってたの?」
「ん?
事件の捜査よ。
昨日だか一昨日だかの暴風雨で倉庫のシャッターが飛んできて、近くにいた人が巻き込まれて圧死したのよ。
って……彩?」
上司の前では我慢していた。
けれど、ママの前では我慢できなくて……大泣きしてしまっていた。
ママは、そんな私を見かねたのか、そっと頭を撫でてくれた。
「ママ……私……圧死の事件聞くと……思い出しちゃうの……
前の……しつ…じの……ふじわらのっ……ふぇっ……」
「そうね……彩の目の前で……だったものね。
まだ辛いのは、当然よね」
「あと……自分が嫌で仕方ないの。
藤原はこうだったけど矢吹はこうとか……
比べちゃうのよ、矢吹と。
こんなの……天国にいる藤原が聞いたら…どう思うかな」
「彩。
貴女の気持ちは分かるわ。
……十分。
それこそ、痛いくらいにね。
だけど……今すぐとは言わないわ。
貴女にそれを求めるのは酷だもの。
ゆっくりでいいから……忘れなさい。
藤原のことは。
もういない人を想ってたって、意味ないの。
貴女は現実を見なさい。
今の執事は矢吹さんでしょ?」
ママも……そういうこと言うんだ。
先程、私が泣きじゃくった時は頭を撫でてくれていたのに。
だからこそ、分かってくれると信じて気持ちを話した。
裏切られた気分で、ショックで。
打ちひしがれた。
「ママも…そんなこと言うんだね……
知らないでしょ?
私がどれだけ藤原を好きで信頼してたか。
もういい!」
「彩っ!?」
私の気持ちを分かってくれる人なんて、どこにもいない。
いるはずがない。
この家には、今は居たくなかった。
藤原の思い出がほんのり残る、この家には。
ママが私の名前を呼ぶのも聞かずに、長い廊下を走って、夢中で階段を駆け降り、玄関を飛び出した。
早かったのね、彩」
私に声を掛けてきたのは、ママだった。
「ママ……」
今帰ったらしく、チェックブラウスにネイビーのカーディガン、ベージュのチノショーパンを着ている。
寒色系の色の服がよく似合うママ。
いつもの黒いジャンスカワンピじゃないってことは……今日は法廷に立ってないのか。
法廷に立つ日は、黒いジャンパースカートを着ているのが常だ。
「彩。
貴女……顔色悪いけど……大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。
ところで…ママはどこに行ってたの?」
「ん?
事件の捜査よ。
昨日だか一昨日だかの暴風雨で倉庫のシャッターが飛んできて、近くにいた人が巻き込まれて圧死したのよ。
って……彩?」
上司の前では我慢していた。
けれど、ママの前では我慢できなくて……大泣きしてしまっていた。
ママは、そんな私を見かねたのか、そっと頭を撫でてくれた。
「ママ……私……圧死の事件聞くと……思い出しちゃうの……
前の……しつ…じの……ふじわらのっ……ふぇっ……」
「そうね……彩の目の前で……だったものね。
まだ辛いのは、当然よね」
「あと……自分が嫌で仕方ないの。
藤原はこうだったけど矢吹はこうとか……
比べちゃうのよ、矢吹と。
こんなの……天国にいる藤原が聞いたら…どう思うかな」
「彩。
貴女の気持ちは分かるわ。
……十分。
それこそ、痛いくらいにね。
だけど……今すぐとは言わないわ。
貴女にそれを求めるのは酷だもの。
ゆっくりでいいから……忘れなさい。
藤原のことは。
もういない人を想ってたって、意味ないの。
貴女は現実を見なさい。
今の執事は矢吹さんでしょ?」
ママも……そういうこと言うんだ。
先程、私が泣きじゃくった時は頭を撫でてくれていたのに。
だからこそ、分かってくれると信じて気持ちを話した。
裏切られた気分で、ショックで。
打ちひしがれた。
「ママも…そんなこと言うんだね……
知らないでしょ?
私がどれだけ藤原を好きで信頼してたか。
もういい!」
「彩っ!?」
私の気持ちを分かってくれる人なんて、どこにもいない。
いるはずがない。
この家には、今は居たくなかった。
藤原の思い出がほんのり残る、この家には。
ママが私の名前を呼ぶのも聞かずに、長い廊下を走って、夢中で階段を駆け降り、玄関を飛び出した。