太陽と雪
翌朝、目が覚めた俺は、隣で気持ちよさそうに寝息を立てる椎菜に布団を掛け直してやった。

今日は講義の日ではないようだ。

そっと部屋の外に出て、隣の部屋へと移る。


「おや、お早いお目覚めですね、麗眞坊ちゃま」

「ああ、まあな。
あのままいたらヤバかったけど。
間一髪だったよ」


椎菜の寝相は決していいほうではない。

それにしても、ワンピースの裾がめくれあがっていたのには驚いた。

必死に欲望を理性で抑えるために、布団を掛け直してやったのだった。

「ふふ、そのような麗眞坊っちゃまの生真面目なところは、旦那さまにそっくりでございますよ」


「知ってる。

もうおふくろやら姉さんやら相沢に言われすぎて耳たこだよ、その台詞」


「申し訳ございません、麗眞坊っちゃま」


「いいけどさ、別に……
言われて嫌になる言葉じゃないし」


相沢とそんな会話をしながら家で過ごすときのラフなスウェットに着替えを終えた俺は、ふと気になって問いかけた。


「あれ?
姉さんと美崎さんは?」


「今は朝の8時でございます。

彩さまと美崎さまはお仕事があるということで、今は朝食をお召し上がりになっていらっしゃいます。

麗眞坊ちゃまも行かれますか?」


「俺はいいや。

今日は何もないし、あんなことがあって、独りぼっちにすると椎菜が心配だ。

椎菜と一緒に飯食うよ」


「かしこまりました」



そんな話をしていると、不意に部屋のドアがノックされた。


「はい」

「麗眞くんかしら。
私。

美崎よ。

入っていいかしら」


ドアの外から聞こえた声は、美崎さんの声。

彼女が俺を訪ねて来るなど、新鮮だ。


「どうかしました?
美崎さん」


失礼するわという言葉と共に俺の部屋のドアを開けた美崎さんは、椎菜のことを心配していた。


「おはよう、麗眞くん。
どう、椎菜ちゃんの様子は」


「おはようございます。

椎菜は今もぐっすり眠ってます。

夕食もきちんと食べてたし、体調面では問題ないと俺は思いました」


「そう。
不安になったり、とかはあった?」


「特に。
俺が見た限りでは、なかったです」


「そう。
それなら、問題なさそうね」


美崎さんは、今日は姉さんと親父と共にどこかへ出向くらしい。



「あ、近いうちに、麗眞くんも、その人たちと関わることになるかもしれないわね。

じゃあ、椎菜ちゃんのこと、気にかけていてあげて?

あ、くれぐれも今の彼女に手を出すなんて言語道断よ」

それだけを矢継ぎ早に言って、美崎さんは部屋を出て行った。


言われなくても、気に掛けるんだけどな……

なんせフィアンセのことだし。

言語道断だと言われても手を出さない保証は出来かねるが。

昨夜もあのままの体勢でいたら、チュールで覆われた白いワンピースを脱がせて彼女の甘い声を聞いていたことだろう。

首筋に1つ、紅い華を残しただけに留めた俺を、誰か褒めてほしいくらいだ。

美崎さんと入れ替わるように、ノックもせずに高沢が部屋に入ってきた。


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