太陽と雪
「高沢……」
「昨日は申し訳ございませんでした……
椎菜さまと麗眞さまに無断でいなくなってしまって……
病院から応援を頼まれまして、そちらに行っておりました……」
土下座をする勢いで謝る高沢。
こんな彼は見たことない。
「気にするな、高沢。
高沢もいろいろあるんだろ。
今は、宝月家の専属医師の仕事だけじゃなくて理名のいる病院にちゃんと戻ってそこの総合医でもあるんだろ。
理名から聞いてるよ。
アイツ、真面目なで物分りいいやつだから。
ちゃんと後輩として見てやってほしい。
アイツの親友としての、俺からのお願い。
ああ、椎菜は今はぐっすり寝てるし、何もなかったから」
「はい、ありがとうございます、麗眞坊ちゃま」
「ところで、本当の本当に椎菜さまとは何もなかったのでございますね?」
「そうだよ!」
手を出すまいと必死に欲望を抑えたのだ。
椎菜と付き合っていた未成年だった頃なら、昨夜の状況で確実に椎菜をベッドに倒して行為に及んでいただろう。
俺も多少は成長したらしい。
高沢にじっと目を覗き込まれる。
「嘘をついている人間の目ではございませんね。
私、安心いたしました」
「当たり前だろ?
これでも毎回必死に抑えてるんだから。
椎菜っていう可愛い婚約者がいるのに自分で処理するの、苦痛だよ」
「麗眞坊ちゃまも大変でございますね。
椎菜さまは相当純粋なお方ですので……」
「純粋すぎて困るよ。
そのくせ、たまに甘えてきたり、何の気なしに男をその気にさせるセリフ言ってくるし」
「その部分だけ言われると、椎菜さまは奥様に似てらっしゃるかと」
え?
そうなの?
うわわ、普段の法廷で強気なおふくろからは、親父に甘える姿が全く想像つかない……。
きっとそれは、親父にしか見せないんだなと思うと、親父が微笑ましく思えてくる。
ま、親父も忙しいし、癒しは必要だろう。
外でリムジンが発車するエンジン音が微かに聞こえた。
美崎さんたちが出発したのだろう。
「麗眞さま、椎菜さまの様子を見て来られてはいかがですか?
私は後から参りますので」
そういえばそうだな、と思い、椎菜がいる隣の部屋に向かう。
起きているのかいないのか分からないので、部屋の外から声を掛けてみる。
「おはよ、椎菜。
起きてる?」
「起きてるけど……!
麗眞、そこに高沢さんいたら呼んで!」
やけに焦った口調の椎菜が気になったが、素直に高沢を呼んでやる。
「高沢、椎菜が呼んでる」
俺がそう声を掛けた瞬間、高沢は何かに気づいたらしく、自分の部屋に向かった。
数分後には、可愛らしい花柄のキャリーバッグを引きながら戻ってきた。
「椎菜様、ただいま持って参りましたので」
「ありがとうございます、高沢さん……!」
俺はいつからいたのか、相沢に腕を引かれて、元いた部屋に戻された。
何……?
何なの……?
とまどいながらも、必死に思考を巡らせる。
「椎菜さ、まさか、着替えやらいろいろ必要なものが入ったあのキャリーを高沢の部屋に置いたままだったの?
それに気付かないで、俺があの部屋連れていっちゃったから……
着替えやらいろいろしたくても出来ないから、高沢に取りに行くように言ったんだな。
そこまで頭回らなかった……
なんか申し訳ないな……」
「さすが、でございますね、麗眞坊ちゃま。
大正解でございます。
彩さまや椎菜さまを見てお分かりになるように、女性は起き抜けの姿を男性に見られることを好まないのでございますよ。
特に、意中の男性には」
だから、俺をあの部屋に入れさせたくなかったのか……
「そして、麗眞坊ちゃま。
欲望に駆られた時ほど、冷静な状況判断をすることをお忘れなきよう」
「はい」
相沢の的確な言葉に、しゅんとうなだれた。
そういえば、と昨夜のことを思い浮かべる。
俺が椎菜をあの部屋へ連れて行こうとした直後、椎菜はじっと、高沢の部屋の方角を見ていた。
あれは、他でもない、高沢の部屋に行きたい、という意思表示であったのだ。
俺は、椎菜の事なら何でも分かるのだ、と思い込んでいた。
そんなの、ウソじゃん。
俺、椎菜のこと、全然分かってねーじゃん。
婚約者なのにな。
……一応。
「昨日は申し訳ございませんでした……
椎菜さまと麗眞さまに無断でいなくなってしまって……
病院から応援を頼まれまして、そちらに行っておりました……」
土下座をする勢いで謝る高沢。
こんな彼は見たことない。
「気にするな、高沢。
高沢もいろいろあるんだろ。
今は、宝月家の専属医師の仕事だけじゃなくて理名のいる病院にちゃんと戻ってそこの総合医でもあるんだろ。
理名から聞いてるよ。
アイツ、真面目なで物分りいいやつだから。
ちゃんと後輩として見てやってほしい。
アイツの親友としての、俺からのお願い。
ああ、椎菜は今はぐっすり寝てるし、何もなかったから」
「はい、ありがとうございます、麗眞坊ちゃま」
「ところで、本当の本当に椎菜さまとは何もなかったのでございますね?」
「そうだよ!」
手を出すまいと必死に欲望を抑えたのだ。
椎菜と付き合っていた未成年だった頃なら、昨夜の状況で確実に椎菜をベッドに倒して行為に及んでいただろう。
俺も多少は成長したらしい。
高沢にじっと目を覗き込まれる。
「嘘をついている人間の目ではございませんね。
私、安心いたしました」
「当たり前だろ?
これでも毎回必死に抑えてるんだから。
椎菜っていう可愛い婚約者がいるのに自分で処理するの、苦痛だよ」
「麗眞坊ちゃまも大変でございますね。
椎菜さまは相当純粋なお方ですので……」
「純粋すぎて困るよ。
そのくせ、たまに甘えてきたり、何の気なしに男をその気にさせるセリフ言ってくるし」
「その部分だけ言われると、椎菜さまは奥様に似てらっしゃるかと」
え?
そうなの?
うわわ、普段の法廷で強気なおふくろからは、親父に甘える姿が全く想像つかない……。
きっとそれは、親父にしか見せないんだなと思うと、親父が微笑ましく思えてくる。
ま、親父も忙しいし、癒しは必要だろう。
外でリムジンが発車するエンジン音が微かに聞こえた。
美崎さんたちが出発したのだろう。
「麗眞さま、椎菜さまの様子を見て来られてはいかがですか?
私は後から参りますので」
そういえばそうだな、と思い、椎菜がいる隣の部屋に向かう。
起きているのかいないのか分からないので、部屋の外から声を掛けてみる。
「おはよ、椎菜。
起きてる?」
「起きてるけど……!
麗眞、そこに高沢さんいたら呼んで!」
やけに焦った口調の椎菜が気になったが、素直に高沢を呼んでやる。
「高沢、椎菜が呼んでる」
俺がそう声を掛けた瞬間、高沢は何かに気づいたらしく、自分の部屋に向かった。
数分後には、可愛らしい花柄のキャリーバッグを引きながら戻ってきた。
「椎菜様、ただいま持って参りましたので」
「ありがとうございます、高沢さん……!」
俺はいつからいたのか、相沢に腕を引かれて、元いた部屋に戻された。
何……?
何なの……?
とまどいながらも、必死に思考を巡らせる。
「椎菜さ、まさか、着替えやらいろいろ必要なものが入ったあのキャリーを高沢の部屋に置いたままだったの?
それに気付かないで、俺があの部屋連れていっちゃったから……
着替えやらいろいろしたくても出来ないから、高沢に取りに行くように言ったんだな。
そこまで頭回らなかった……
なんか申し訳ないな……」
「さすが、でございますね、麗眞坊ちゃま。
大正解でございます。
彩さまや椎菜さまを見てお分かりになるように、女性は起き抜けの姿を男性に見られることを好まないのでございますよ。
特に、意中の男性には」
だから、俺をあの部屋に入れさせたくなかったのか……
「そして、麗眞坊ちゃま。
欲望に駆られた時ほど、冷静な状況判断をすることをお忘れなきよう」
「はい」
相沢の的確な言葉に、しゅんとうなだれた。
そういえば、と昨夜のことを思い浮かべる。
俺が椎菜をあの部屋へ連れて行こうとした直後、椎菜はじっと、高沢の部屋の方角を見ていた。
あれは、他でもない、高沢の部屋に行きたい、という意思表示であったのだ。
俺は、椎菜の事なら何でも分かるのだ、と思い込んでいた。
そんなの、ウソじゃん。
俺、椎菜のこと、全然分かってねーじゃん。
婚約者なのにな。
……一応。