太陽と雪
私は、執事の矢吹を先頭に、遠藤教授と美崎を連れて、フランスへと旅立った。

疲れが溜まっていたのか、機内で眠ってしまっていた。

「到着致しましたよ、彩お嬢様」

耳元で聞こえる声が、心地よくて、覚めかけた眠りの世界に、また堕ちる。

「彩お嬢様。

起きてください。

起きませんと、その柔らかい唇、塞いでしまいますよ?」

唇に、何か柔らかいものが触れた気がした。

ゆっくり目を開けると、整った、高い鼻と、黒目の中に少し茶色がかったように見える目が視界に入る。

「あ、起きましたか。

おはようございます、彩お嬢様」

矢吹の声がした。

美崎に脇腹を小突かれた。

「やるねぇ、彩」

「なんの事かしら?」

「矢吹さんにキス……ふごっ」

美崎の唇は、矢吹の大きな手によって塞がれていた。

「いくら彩お嬢様のご学友でも、からかいや冷やかしは許しませんよ?」

「ごめん!」

あまり反省していないな、コイツ。

キス……って、どんなのなんだろう。

柔らかいのかな?

どんな味がするんだろう?

いろいろと考えていたら、また眠ってしまっていた。

「皆様、機内にいらっしゃる皆様は、シートベルトをご着用ください。

目的地に到着致します」

そのパイロットである南さんのアナウンスで目が覚めた。

目の前にそびえるのは、大きな邸宅。

あの、ラブラブなバカップルのために、宝月不動産に無理を言って調達してもらった物件だった。

インターホンを鳴らして部屋に入る。

遠藤さんは、三咲 奈留を連れて、病院に向かった。

そこに自分の後輩がいるのだと言う。

遠藤さんから聞いた情報だと、彼女は自殺を図らないよう、軟禁状態にされながらの入院生活を、しばらく送ることになるらしい。

葦田雅志と美崎は初対面だ。

「どうぞ。

私が気に入らないなら、会った瞬間に殴り飛ばしてくれてもいいのよ?」

「そこまでするほど俺は子供じゃない。

それに、貴女は、血の繋がっていない母親のそのやり方に、反発しているのでしょう?」

「最近、新たなことが分かったの。

その、血の繋がっていない私の母親も、例の人格を変えるクスリ漬けにされているのよ。

誰かいるわ。

裏で糸を引いているやつが。


……心当たりはある。
今、情報を集めさせているわ。

あの人も、ある意味被害者。
申し訳ないことをしたわ」

「貴方が謝る必要はない。

本当に悪いのは、裏で糸を引いている人だ。

貴女自身も被害者なのだから」

葦田 雅志。

こんな大人びたことを言う人だったかしら?

彼も、私の知らない間に成長しているのね。

どうすれば院長が元に戻るのか、この状況を打破するにはどうしたらいいか。

徹夜で会議が行われた。
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