太陽と雪
院長の知り合い探しは、難航を極めた。

友人が少ないタイプだったらしい。

柄にもなくしょげている私を見て、励ましてくれたのは矢吹だった。

「らしくないですよ、彩お嬢様。

貴女がそのようなお顔をなさるなど。

貴女がそのようなお顔をしていれば、雅志様も、奈留様も、美崎様も。

きっとご不安でしょう。

貴女らしく、自信を持って突き進んでくださいませ。

私達は執事です。

ご要望を仰ってくだされば、何なりと対応いたします。

お嬢様の望みを叶えることこそ、我々のこの上ない歓びでございますから」

矢吹の励ましに、これでもかというくらい声を上げて泣いた。

それから、何時間経っただろうか。

外はすっかり暗くなって、室内には間接照明が点いていた。

「……や、ぶき?
いるの?」

「はい。
お呼びでしょうか?
彩お嬢様」

「なんでもないわ。

いるのか、不安になっただけよ」

ふわりと、香水の爽やかな香りが鼻孔をくすぐった。

次の瞬間には、後ろに矢吹がいて、抱きすくめられていた。

「ご無礼をお許しくださいませ、お嬢様。

貴女様の泣きそうなお顔を見るのは、死ぬより辛いのでございます」

「……今夜は、ここにいてくれるのよね?

勝手にどこかに行くなんて、許さないから」

「それがお嬢様のお望みでしたら、何なりと」

矢吹の作った食事を平らげたあと、急に睡魔が襲ってきた。

普段は入眠まで遅いのに、今までにないくらいスヤスヤと眠った。

一緒に来たはずの美崎は、翌日になっても姿を見せなかった。

「美崎、どこにいるのかしら。

来たのは最初だけで、あとは自由行動、ってことかしら」

「美崎様はここにいるどの方よりも、例のクスリに詳しい方です。

きっと、独自に情報を集めていらっしゃるのでしょう。

下手に動いて、目をつけられなければよいのですが。

城竜二家の正当な当主は美崎様です。

逆に言えば、彼女を潰せば、誰もが当主の座を得られるということでございます。

美崎様は、城竜二家の全員を敵にしている状態でございます故、心配です。

そうならないよう、私も隙間時間を見つけては城竜二家のパソコンやサーバーをハックし、重要そうな情報を盗み取って侵入を試みております。

セキュリティが厳重で、一筋縄ではいきそうにありません。

昨夜も、お嬢様が寝ている間もずっと、サーバーに侵入してみましたが、手応えのある情報は何も掴めませんでした」

「セキュリティが厳重、っていうことは、そこに大事な情報があるってこと?」

「さようでございます。

セキュリティさえ突破できれば、手がかりがそこにあるかもしれません。

どうやら、先方は私のことをただの彩お嬢様の執事だとしか思っていないご様子。

調査不足を後悔するとよいでしょう」

矢吹の目は少し充血しているようだ。

「パソコン作業もいいけれど、
少し休みなさいな。

目が真っ赤よ」

「お気遣い、ありがとうございます、
彩お嬢様。

しかし、この状況を打破できる可能性のある手がかりがあるのに、みすみす逃すわけには参りません。

私が宝月家に来る前にどこにいたか、目にもの見せてあげますよ」

そんな会話を聞いていると、また睡魔が襲ってきた。

なんでだろう、さっきも寝たのに。

目をトロンとさせていると、矢吹に優しく頭を撫でられた。

「さぞお疲れでしょう、いろいろありましたものね。

ごゆっくり、お休みくださいませ」

優しい声に導かれるように、眠りに落ちた。
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