太陽と雪
話そうとした華恋ちゃんを制して、理名ちゃんが、ゆっくりと話し出す。

思い出すと未だに苦しくなるのか、ネイビーのドレスの胸元にそっと手を添えている。

「昔の話よ。

確か、麗眞くんの奥さんの椎菜にマイコプラズマ肺炎の診断がつくかつかないか、な頃だったわ。

その頃から、私は勘の良い深月や拓実、それに隠し事を悟られそうな先輩方。

彼女たちに会うのを避けていたわ。

つい、本音を溢してしまいそうで。

他病院のヘルプにばかり行っていた。

たまたま、麗眞くんのところの専属医師から連絡が入ったのは、ヘルプから病院に戻って来た時だったの。

よりを戻した後の椎菜と麗眞くんの姿を見ていたら、私も幸せは自分の手で掴まなければ、って思わされた。

それと同時に、幸せになる為の努力から逃げちゃダメだな、って改めて思わされたの」

そこで彼女は言葉を切ると、悔しそうに唇を噛んだ。

……あの日、そんなことがあったのか。

あれ以来、理名ちゃんのことはあまり気にしていなかった。

拓実とは、たまに連絡を取っていたが。

高校時代から2人の友人を気取っていたが、撤回しなければならないか。

「その1ヶ月後くらいで、何とか拓実に伝えなく
ちゃ、とは思ったけど。

お互い研修医の身ですれ違いばかりだったのもあって。

伝えるタイミングがないまま、ズルズルと日々は過ぎていったわ。

時間を作って貰うなんて、いつでも出来たのにね。

その勇気が出ない自分に嫌気が差したの。

自ら自分の人生に幕引きする気なんて、さらさらなかったわ。

でも、辛さは誰かに分かってほしかった。

そんな気持ちはあったかな」

「それで、私の先輩が処方した眠剤をお酒で飲んだ、と。

しかも結構な量を。

何となく理名の様子がおかしかったから、近々お昼休みとかに食堂で話を聞こうと思ってた矢先でね。

親友の様子も気にかけられないなんて、精神科医失格ね」

どんな言葉を掛けても陳腐に聞こえてしまいそうだったので、深月ちゃんの肩を軽く叩いた。

そこまで思いつめることもないだろう、という言外に込めたこの仕草の意味は伝わっただろうか。

くい、と理名ちゃんの手を引いて、椎菜は少し俺たちから離れた場所に移動していた。

少なからず、そんなことになっていたなんて椎菜は知らなかっただろうから、何か言葉を掛けているのだろう。

二次会はそのままお開きとなり、俺と椎菜は、式を挙げたホテルの一室に泊まっていた。

シャワーを浴び終えて部屋に戻ると、椎菜が俺のスマホをひらひらと振っていた。

「おかえり、麗眞。

今、理名から電話あったよ。

さっき倒れた人、無事に意識を取り戻したみたい。

一時は瀬戸際だったみたいで、理名や拓実くんの後輩たちの方が慌ててた、ってさ」

「お、そっか。

良かった。

無事に家に帰るまでが披露宴だからな。

それよりさ、椎菜。

理名ちゃんにあの時、何て言ってたの?」

「大したことは言ってない。

二次会で妊娠報告したの、口では祝福の言葉をくれたけど、心の内は辛かっただろうから。

軽率だった、ってお詫びを言っただけ。

理名は、親友のそういう報告は嬉しい。

自分とは切り離して考えてるよ、って言ってはくれた。

協力なら何でもする、何なら空き時間には私にも連絡してくれるって。

そうすれば、些細なことも伝えやすいだろうって。

デキる親友を持てて幸せだね、私たち」

「そうだな。
本当にそう思う。

2人……いや、3人で幸せになろうな、椎菜」

抱き潰したくなるのを何とかなけなしの理性で抑えて、最愛の奥さんを腕の中に収めた。

すると部屋にノックの音が響いた。


























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