太陽と雪
〈彩Side〉

私の弟が晴れて最愛の人と正式に夫婦になって、盛大に式を挙げてから、2ヶ月が経った頃だった。

もう、寒かった季節は過ぎて、徐々に暖かい日が増えてきた。

ピンク色の花を咲かせていた桜はすっかり散ってしまい、何だか寂しくなる。

これも日本人の性なのだろうか。

今日は有給休暇を貰っている。

買い物にでも出るつもりだった。

義理の妹の懐妊祝いの品、それに大事な親友の美崎の婚約祝いの品でも見繕う予定でいたのだ。

予定はあえなく潰れることとなった。

私の愚弟の執事、相沢さんと晴れて婚約者となった美崎。

彼女が酷く苛立った様子で、私の部屋をノックしてきたからだ。

「やられたわ。

最期まで、誰かを不幸にして逝くんだから、アイツ」

アイツとは、先日美崎を長らく監禁し、彼女の婚約者の相沢さんに、手術が必要なほどの怪我を追わせた美崎の義母だ。

義母が持っていた拳銃によって、美崎の母親は無情にも命を落とした。

美崎が監禁され、意識が朦朧としている間の出来事だったという。

「あの、彩の動物病院の女性医師、葦田 奈留といったかしら?

あの子の父親が、亡くなったわ。

彼女の父親が医師団に所属していたのは知ってるわね?

医師団の後輩がそろそろ引退を考えているみたいだったの。

日本で彼がしている業務を手伝ってもらえないか、話をしに行く途中だったみたい。

その道中で、乗っているヘリが墜落したのよ。

最期の最期まで、彼自身も瀕死の重傷を負いながら、乗客の命を救っていたみたいだけどね。

大方、ヘリの操縦士がわざと操作を誤ったか、そう見せかけたか。

城竜二の人間なら、急に心臓発作を起こさせる薬とか、作れそうだもの。

そういう方面だけには頭が回る奴らばかりだったからね。

その薬剤知識、いい方向に持っていけば世界的な賞も夢じゃなかったのにね。

ブラックボックスもおそらく壊れたでしょうから、真相は闇の中、だけど。

忌々しいわ、全く」

そんな話をしていると、話題に上がった奈留ちゃんからビデオ通話が入った。

仕事を3日ばかり休むという。

それは休んでもらって構わない。

むしろ、精神状態が不安定なまま業務に当たられても迷惑なだけだ。

彼女の話によると、奈留ちゃんの父親は、いつ自分の身が危うくなるか分からないとして、遺言を残していたようだ。

それだけではない。

家の金庫の中に、妻の名前が書かれていない離婚届と、婚姻届も準備されていた。

婚姻届には、『高沢 輝』と書かれていたそうだ。

はぁ!?

何でそんなことになるの?

「彩って、昔も今も本当に、そういうことには疎いのね。

お互い、既婚者と独身者で秘めた想いにしていたつもりだったんだろうけど。

私とか麗眞くん、椎菜ちゃんやその友人たちにもバレバレだったわよ」

そうだったの?

そして、あろうことか高沢は、すでに朱音さんにプロポーズ済みらしい。

そのプロポーズを受けるか否か、母から娘への相談があったようだ。

『こう言ったんです、母に。

私は反対しないよ。

お母さんが決めた人と。

この人だ、って人と幸せになる方がいいよ。

私は実際、雅志が夫になってくれて幸せだもん。

お母さんも、好きに生きていいと思うよ』

「貴女らしいわね。

羨ましいわ。

皆、幸せそうで。

とにかく、少し気持ちを落ち着ける時間が必要でしょう。

少しリラックスするといいわ。

場所が必要なら、提供するから、遠慮なく言って頂戴ね」

母親が高沢を見る目が、自分が夫といるときと同じ恋する女性のそれだった、というのは、幼いうちからピンときていたのだという。

恋愛事情には特段疎い自分は、幸せになれないのだろうか。

自分の親友や、自分の弟が、最愛の人と幸せに過ごす様を見ると、何だか虚しくなる。

その日は、なかなか眠れなかった。

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