十三日間
隣のおっさんは、扉が開いた瞬間に無謀にも逃げだそうとしたのか、激しく打ち据えられていた。
肉体を叩く音と、怒号と、悲鳴が入り交じって聞こえてくる。

ようやく引きずり出されたおっさんは、俺と、じぃさんの部屋の前を通って、階段に向かった。

両腕を縛られ、両脇を抱えられて歩くおっさんの顔を、俺は初めて見た。

何日か隣にいたおっさんの顔。
どこにでもいるような、ごく普通のおっさんだった。
恐怖に震える表情を除けば…だが。

「いやだぁ…助けてくれぇ……っっっ」

涙で顔は歪み、叫びすぎて声は嗄れていた。
たった今殴られた傷が、目の下にできていて、血が流れていた。
引きずられるようにして、おっさんは一瞬にして俺の目の前から去っていった。

永遠に、さようなら、だ。

六日後には、俺もその道を辿って逝く。

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