十三日間
あたりに、再び静寂が訪れる。

「ふ、普通はこっちは通らないんだ。彼らが言っていた、裏の出口から運び出されるから、
ここにいる者が目にすることはない筈なのに……」
じぃさんの声は震えていた。

奴らが言っていたように、普段は使う裏の出口のカギが壊れて、仕方なくこっちを通ったのだろう。
だが、それは俺たちにとって、不幸な事故だった。

俺はともかく、特に、じぃさんにとって。

生きたままのおっさんが通り過ぎて行った時、まだ、実感はあまり湧かなかっただろう。
だが、袋に包まれて運ばれる、ただの物体になった姿を見せられるのは、恐怖だった。

いたずらに怯えさせる事はさすがに奴らもしないだろうから、今回のことは不本意な事故であったに違いない。
それでも、俺たちを動揺させるには十分だ。

階段を登りきった後は、ただの物体になる。

頭で判っていても、現実に物体となったおっさんを見てしまうと、その実感が見に染み渡った。

「ううう、うぅぅっっ」

じぃさんのすすり泣く声が聞こえてくる。

慰めるすべもない。

やがて、恐怖は確実に現実になるのだから。

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