。*雨色恋愛【短編集】*。(完)
「秋山。あいつのことなんか、早く忘れて。

俺、奏歌ちゃんを苦しめてるあいつ…すげぇ

嫌い」

「尚斗クン…あたしね」

「ん?」

「もう…奏のこと、好きじゃないから。だか

ら…気にしないで?あたしは、尚斗クンが近

くにいてくれるだけで、笑顔になれるよ。だ

からね…」

「無理。俺、奏歌ちゃんを心配して、好きと

か言ってるわけじゃないから。俺は…本気で

奏歌ちゃんが好きだから。付き合ってほしい

んだ」

…待ってよ。

あたし、何も気づいてなかったよ。

尚斗クンが…あたしに、そんな気持ちを抱い

てたの。

だから…あたしには、他の女子とは違って、

優しくしてくれてたの?

そんなのって…

「ごめん。ごめんね…」

あたし、何も知らずに、尚斗クンに甘えてた

かもしれない。

「…なんで謝るんだよ」

「あたし、尚斗クンの気持ちも知らず…甘え

てた。あたし、尚斗クンを…傷つけてたかも

しれない」

「謝んなよ。だって、俺が奏歌ちゃんに気持

ち、伝えてなかったんだからさ」

「でも…」

「とにかくさ」

さっきより、強い力で抱き締められて。

「俺のこと、まだ好きじゃなくていいから…

付き合ってよ。付き合ってるうちに、好きに

させるから」

「でも…」

強く、抱き締めるから。

尚斗クンの鼓動が伝わってきて、本気なのが

よくわかって。

中途半端に付き合ったら、いけない気がする

んだ。

「…好きだ、奏歌」

…初めて、呼び捨てされた。

一瞬、ドキッとした。

「…あたし、バカだから。尚斗クンに、そん

なに言われたら、断れないよ…」

「わかってる。奏歌ちゃんは、こう言ったら

断れないのわかってて…俺は言ったから。俺

さ、ズルいよな」

「…ズルくないよ」

ズルいのは…あたしの方。

そんなに言われたら…なんて、ズルい。

奏から逃げたくて、尚斗クンに助けてもらっ

てるだけじゃない。

…ごめん、尚斗クン。

「奏歌ちゃん、ありがとう」

尚斗クンの笑顔が、優しすぎて…

切なくなるよ。

自分が…もっと、嫌いになるよ―…
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