接吻ーkissー
「菊地竜之(キクチタツユキ)」

彼が言ったので、
「えっ?」

私は聞き返した。

「俺の名前、菊地竜之」

彼――菊地さんが言った。

「えっと、いい名前ですね」

そう言った私に、
「だろ?」

菊地さんが笑った。

だろって…。

意外とナルシストなのかしらと、そんなことを思った。

「じゃ、1曲弾きましょう」

菊地さんがピアノの前の椅子に座った。

なれたように奏でるその音色は、やっぱりピアニストだと思った。

店内に、ピアノの静かな音色が響き渡る。

菊地さん、キレイだな。

そう思った時、頭の中で彼女がよぎった。
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